基盤を整えてデータ活用を進める必要性は理解していますが、情報システム部門に依頼するとどうしてもDWH(データウェアハウス)構築を前提とした話になり、要件定義やシステム設計に時間とコストがかかってしまいます。経営層からは「早く基盤を整え、成果を出すように」と求められているのに、実際には構想が大きくなりすぎて最初の一歩を踏み出せない状況です。DX推進の担当としては、もっと軽く、スピード感を持って始められる方法を探しています。
データ活用の基盤を整備することは、多くの組織で共通の課題です。特に製造業では、生産・品質・調達・営業といった多様なシステムが存在するため、どこから手を付けるべきか迷いやすいのが実情です。
一般的な対応としては、部門ごとに必要なデータを抽出してExcelや簡易データベースにまとめたり、ETLツールを使って部分的に連携したりする方法があります。一方で、短期間で成果を示せるものの、データの粒度や定義が揃わず、横断的な分析や持続的な活用には限界があるのも事実です。
私たちは、このような状況に対して「まず成果を見せる」ことを重視したアプローチをご提案しています。既存システムを大きく改修せず、DWHが必要のない仮想統合の仕組みによって必要なデータを横断的に参照できる環境を短期間で整えることが可能です。これにより、DX部門が自ら主体となって具体的な成果を提示でき、経営層の期待に応えやすくなります。
こうした環境が整えば、営業と生産計画のデータを突き合わせて需要変動に対する生産体制の妥当性を検証したり、原価や在庫データを組み合わせて採算性を可視化したりといった分析をすぐに始められます。小さな成果を積み上げることで社内の合意形成も進み、将来的なDWH構築や本格的な基盤整備に向けた議論にもつなげていくことができます。
まずは基盤構築の目的や、短期的に成果を示したい領域についてお伺いし、最適なスモールスタートの方法をご提案いたします。詳細なご要望をぜひお聞かせください。
DWH構築の“壁”を超えるスモールスタートのすすめ
データ活用の取り組みを始める際、「まずはDWH(データウェアハウス)を構築しよう」という方針が立てられることは少なくありません。しかし、要件定義や設計に多くの時間とコストがかかり、プロジェクトが重くなってしまうケースも多く見られます。
特に製造業では、生産・品質・営業など複数のシステムが並立しており、「全社最適を見据えて進めたい」という思いが強いほど、スコープが広がりやすい傾向にあります。結果として、構想ばかりが先行し、投資対効果が見えづらいまま初動が遅れるという課題に直面します。
一方で、経営層が求めているのは「スピード感のある可視化」と「早期の成果提示」です。本記事では、DWH構築が重くなりやすい理由を整理しながら、短期間で成果を示し、次の展開へつなげるためのスモールスタートの考え方を具体的にご紹介します。
DWH構築のフローとToDo
DWHを構築するプロジェクトは、表面上は「データを集めて格納するだけ」のように見えますが、実際には多くの工程と意思決定を伴います。その全体像を整理してみると、なぜ初動で足踏みしやすいのかが見えてきます。
| フェーズ | 主なToDo | 現場で起きやすい課題 |
|---|---|---|
| 要件定義 | ・経営層・各部門の要求を整理 ・分析目的やKPIを定義 ・対象システム/データ範囲を決定 |
「すべての部門の要件を入れたい」となり、スコープが拡大しやすい |
| 設計 | ・データモデル(スキーマ)設計 ・クレンジング・変換ルール設計 ・更新頻度や保持期間を決定 |
実運用を意識しすぎて仕様が複雑化、軽量化の余地が失われる |
| 構築 | ・ETLツールでデータ連携を実装 ・DBの構築・最適化 ・セキュリティ・権限設定 |
環境構築の前に社内インフラやガバナンス調整が必要となり、着手が遅れる |
| テスト | ・データの正確性検証 ・レポート/BIツールとの連携確認 |
想定外のデータ欠損や整合性エラーが発生し、手戻りが増える |
| 運用 | ・定期更新の実施 ・追加要求への対応 ・データ品質の維持管理 |
継続的なメンテナンス負荷が高く、専任担当を置けない |
このようにDWH構築は、「どんな課題を解決するために、どのようにデータを分析するか」という前提を最初に固める必要があります。分析目的やKPIが明確でないまま進めてしまうと、設計のやり直しやスコープの拡大につながり、結果的にプロジェクト全体が長期化してしまいます。
つまり、DWHは“正しく設計された箱”をつくる仕組みであり、分析の方向性が定まってから動き出すタイプの基盤です。これは堅牢である一方で、スピードを重視した“試行型の分析”や“段階的な改善”には向きにくい構造でもあります。
一方で、現場やDX推進を担当されている方が求めているのは、「まず動かして成果を示す」ことから始めるデータ活用です。すべてを設計し終える前に、限られた範囲で動かし、得られた気づきをもとに次の展開へとつなげる――。
次の章では、そのように初動を早め、段階的に成果を積み上げていくためのデータ活用のアプローチを具体的に見ていきます。
初動を早めるデータ活用のアプローチ
DWH構築に時間がかかる理由のひとつは、最初から“理想の完成形”を目指してしまうことです。全社データを統合して、高度な分析を可能にする――その構想自体は正しい方向ですが、要件定義や設計を詰めているうちに時間とコストが膨らみ、動き出す前に息切れしてしまうケースが少なくありません。
一方で、現場やDX推進を担当されている方が本当に求めているのは、「今ある課題を、今あるデータで解決したい」という現実的なスピード感です。データ整備の理想形を目指すよりも、既存システムや手元のファイルを活かしながら、まず動かす――そこから得られた気づきを次のステップに反映するほうが、結果として早く前進できます。こうして“動く分析環境”を手に入れたら、次はそれをどう維持・成長させていくかが鍵になります。
ここでは、そうした“すぐに動かすための現実的なステップ”として、まず「部分連携で小さく始める」方法から見ていきます。
① 部分連携で小さく始める
全社統合をいきなり目指すのではなく、「関連する2~3部門のデータを結びつける」ところから始めるのが現実的です。
その第一歩として、どのデータがどの業務とつながっているか――つまり“データの流れ”を整理しましょう。
たとえば、
- 受注データ → 生産計画 → 在庫実績
- 不良記録 → 品質検査 → 設備履歴
のように、業務プロセスを軸にデータの関係を可視化すると、「どこをつなげば現場の判断が変わるか」が明確になります。
営業と生産、品質と保全など、関係性が強い2部門を選び、まずは「どんな判断に活かしたいか」を定めて連携を試す――こうすることで、構想を練るよりも早く“動く分析環境”を体感できます。
🔍 ポイント:最初の目的は「正確な統合」ではなく、「データの関係を見える化する」こと。
関係性を理解することが、次に進むための最短ルートになります。
② データの粒度と定義を合わせる
データをつないでみると、次にぶつかるのが「比較できない」という壁です。システムごとに集計単位や管理粒度、項目名が異なるため、単純な突き合わせでは整合が取れません。ここで必要なのは、“きれいなデータ”を作ることではなく、“比べられる状態”を作ることです。
例:
- 営業:日次で売上登録 → 生産:週次集計 → 「月」単位で揃えて比較
- 部品名の揺れ(例:「assy-a」「ASSY_A」「Assy A」)を統一
- 顧客名や製品コードなど、共通キーを定めてひも付け
この整備により、はじめて「同じものを見ている」という共通理解が得られます。
DX推進を担当されている方に求められるのは、“データをつなぐための整備”であり、“完璧にきれいにすること”ではありません。
いまあるデータで「比べられる状態」をつくる――それが、スピーディに基盤を立ち上げる第一歩です。
🧭 ポイント:粒度と定義をそろえることは、データの信頼性を高める第一歩。
「正規化」ではなく「共通の軸」を持つことが目的です。
③ 必要なデータだけを動かす
初動段階では、“すべてのデータを取り込む必要はない”と割り切ることが、基盤構築のスピードを左右します。大切なのは「どのデータを動かすと業務が変わるか」を見極めること。
たとえば、
- 稼働率を見たいなら「停止イベント」「ラインID」「稼働時間」だけ
- 在庫最適化なら「在庫数」「出荷予定」「仕入予定」だけ
といった具合に、必要な項目を絞り込めば、連携の手間が一気に減ります。
ETLツールやRPAを使えば、該当データだけを自動抽出し、一時的に連携して検証することも可能です。現行システムを変えずに“つながる仕組み”を試すことで、組織にとっての実効性を早期に確認できます。
⚙️ ポイント:初期は“部分抽出”で十分。
「動かす」ことを優先し、「移す」ことに時間をかけない。
④ 可視化でデータの動きを確認する
初動のゴールは、分析の完成ではなく、「データが正しく動いているか」を確認することです。BIツールやスプレッドシートでも構いません。まずは1枚のグラフ、1つの指標を可視化して、データの動きを見ます。
ここで確認すべきは、
- 値の単位や桁がそろっているか
- データの更新が止まっていないか
- 想定外の空欄や極端な値がないか
といった基本的な項目です。これを検証するだけでも、データ整備の優先順位が明確になります。さらに、「この見せ方なら業務判断に使える」と現場と共有することで、“データを使う文化”を少しずつ根づかせることができます。
📈 ポイント:見せる目的は“結果報告”ではなく、“動作確認”。
「動かして確かめる」こと自体が、次の改善のきっかけになります。
このように、初動を早めるためには、完璧を目指すより、データを動かして学ぶ姿勢が欠かせません。理想の基盤を構築する前に、“現場のデータがどうつながり、どう動くか”を確かめること――それが、DX推進を担当されている方が短期間で成果を示し、社内の信頼を得るための第一歩となります。
次の章では、この初動で得られた“動くデータ”をどう育て、継続的な活用に結びつけるか――「スモールスタートの工夫」を具体的に見ていきます。
スモールスタートの工夫
初動で“動く分析環境”を得たあとは、そこで得られたデータや気づきをどう育てるかが重要です。スモールスタートとは、単に小さく始めることではなく、小さく始めて、改善と拡張を繰り返しながら基盤を成熟させることを意味します。
ここでは、短期間で成果を出しながら、止まらないデータ基盤を育てていくための4つの実践ステップを紹介します。
① 全てのデータを扱わない ― 必要最小限から始める
初期段階でつまずく多くの原因は、「全部のデータを扱おう」としてしまうことにあります。すべてを対象にすると、データの抽出や整形、項目の精査などで膨大な時間がかかり、「まず動かす」という本来の目的が遠のいてしまいます。
スモールスタートの基本は、“最小限のデータ”で成果を出すことです。たとえば、次のようなテーマであれば、限られたデータだけでも十分に実用的な成果を得られます。
- 在庫最適化の検証:在庫数/出荷予定/仕入予定の3項目だけで在庫過多を見極める
- 生産計画の妥当性チェック:受注履歴/生産実績を突き合わせて、過剰・過少を確認
- 品質不良の傾向分析:不良記録/設備稼働ログを組み合わせて、特定ラインや時間帯を抽出
- 納期遅延の原因分析:仕入先別リードタイム/納品実績から、遅延の偏りを把握
- 販売予測の初期検証:過去販売データと気温や曜日などの外部要因を突合して簡易予測
いずれも、全システムの統合や完全な整備を待つ必要はありません。「まずはこの範囲で動かせる」「このデータだけで確認できる」という線を引くことで、最初の一歩をスピーディに踏み出せます。
また、「最小限」は量だけでなく範囲にも当てはまります。対象部門を絞り、関連性の高い2~3部署(例:営業×生産、品質×保全)に焦点を当てると、連携の効果を実感しやすくなります。
💬 ポイント:「どこをつなぐと判断が変わるか」を見極める。
範囲を絞ることが、スピード構築の最大の武器になります。
② 整える前に“つなぐ” ― 既存データを横断して見える化する
データ活用のスピードを阻む最大の要因は、「整備が終わらないこと」です。形式が違う、項目が合わない――この段階で足が止まってしまうケースがよくあります。
しかし、本来の目的は“完璧に整えること”ではなく、“活用できる状態を早く作ること”です。既存のシステムやファイルをそのまま使い、一時的でも横断的に見えるようにするだけで、現場はデータの動きを理解し、改善の糸口を掴めるようになります。
たとえば、ExcelやBIツールで部門ごとのデータを並べて可視化するだけでも十分です。そこから「この項目を合わせたい」「この更新タイミングを揃えよう」といった次の具体策が生まれます。つまり、動かしながら“そろえるべきポイント”を発見するのが、この段階の狙いです。
⚙️ ポイント:整備の順番を変える。
「整えてからつなぐ」ではなく、「つないでから整える」。
③ 使いながら整える ― 現場の反応で改善ポイントを掴む
データを実際に使ってみると、「この値が合わない」「この項目が抜けている」といった課題が自然に出てきます。こうした“使って気づく違和感”こそが、改善の最良の材料です。
スモールスタートでは、現場で得られた気づきをすぐに反映できる仕組みを持つことが重要です。たとえば、週単位で更新や整備ルールを見直す、小規模な改善会を設けるなど、運用と整備を並行させるスタイルが有効です。
このように“使いながら整える”ことで、整備は自然に現場の実情に合った形に進化していきます。結果として、整備のために立ち止まることがなく、動かし続けながら精度を上げることが可能になります。
💡 ポイント:整備は目的ではなく結果。
活用を通じて自然に整っていく環境をつくる。
④ 早く見せて、広げる ― 成果を共有して次の展開へ
スモールスタートの最終目標は、「小さな成功を早く見せる」ことです。部分的な成果であっても、目に見える形で共有することで、周囲の理解と協力を得やすくなります。たとえば、営業と生産のデータを連携して「受注変動と在庫推移の関係」を見せるだけでも、経営層や他部門に“動くデータの価値”が伝わります。実際に数字で会話ができるようになると、「このデータを足してみよう」「次は品質も入れよう」といった前向きな拡張議論が自然に起こります。
つまり、早く共有すること自体が、次のプロジェクトを呼び込むのです。
🧭 ポイント:見せる目的は“完璧な報告”ではなく、“共感の拡大”。
小さな成功を可視化することで、組織が動き出します。
スモールスタートから“止まらない基盤”へ
DWHは確かに有効な仕組みです。
しかし、要件定義から構築・運用までにかかる時間とコスト、そして変更のしにくさを考えると、スピードが求められる現場にとっては大きな負担になることも少なくありません。
一方、スモールスタート型のデータ活用は、小さく動かし、使いながら整え、成果を積み上げていくという点で、現代のDX推進に非常に適したアプローチです。
ただし、その柔軟な進め方を支えるには、従来型の「構築してためる」仕組みではなく、“つなげて使う”仕組みが欠かせません。
そこで私たちは、DWHを構築せずにデータを横断的に参照できる「仮想統合型のデータ活用基盤」をご提案しています。
既存のシステムやファイルをそのまま活かしながら、必要なデータを“リアルタイムに”つなぎ、アジャイルに分析や改善を進めることができます。
たとえば、次のようなことがすぐに始められます。
- 営業と生産のデータを照合して、需要変動と生産体制の妥当性を検証
- 原価・在庫・調達データを組み合わせて、採算性の可視化と最適化を実現
- 品質や保全データを横断し、不良発生の予兆や改善効果を可視化
こうした分析を「構築前に実践できる」ことこそ、仮想統合の最大のメリットです。
DX推進担当の方が主導し、動かしながら育てる基盤を構築できるため、経営層への成果報告や社内の合意形成もスムーズに進みます。
💡 ポイント:仮想統合は“構築してから使う”のではなく、“使いながら育てる”基盤。
変化に強く、止まらないデータ活用を支える仕組みです。
「DWHを作らないと始められない」と感じている方こそ、“まず動かす”ことから始めてみませんか。
既存のシステムやファイルをそのまま活かし、成果につながるスモールスタートを一緒に設計いたします。
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